すべてを銀色でうめつくして、そこは君と二人きりの世界
「わ、すごいねえ雪」
「ああ、こんなに降ったのは久しぶりだな」
精市と目を合わせて笑う。
新雪を踏むのは好きだ。さらさらとした粉のような雪の中に柔らかに私の足が埋まる。
昨日の晩から今朝にかけて降った雪は今年の積雪量を更新したそうだ。
病院の庭には寒いからか、誰もいなかった。おかげで私はこうしてずっとさっきから誰も踏んでいないところに意味もなく歩き回って足跡をつけている。
精市は、そんな私を見ていつものように微笑んでいた。
静かな雪の原は、まるでどこかに二人投げ出されたみたい。
現実にいないような気がして少し嬉しい。
「精市、寒くない?」
「うん、大丈夫だよ」
「検査どうだった?」
「変わりないよ」
「そう」
月一回である検査に行くとき私はいつも精市についていった。
手術が成功してもまだ安心は出来ない。
ついていくというより、精市は「もう大丈夫」と言ってなかなか病院へ行ってくれないから私がつれていくようなものだ。
いつだって精市は自分のことには無頓着だった。
「雪だるま作ろうか、精市」
「えー?不器用だからなあ」
「何か言ったー?」
「何もないよ」
笑いながら、二人で病院の庭にある大きな木の下に、しゃがんで小さな雪ダルマを二つ作った。
「これ、少し大きいから精市ね」
「じゃあこれは?」
「うん、そう」
「ふふ」
「・・・ちょっとバカにしてる?」
「そんなことないよ」
「写メしとこ」
「わざわざそんなことしなくてもいいんじゃない」
「いーの、撮っておいたらずっと残るでしょ」
パシャ、というやたら耳につく携帯のシャッター音は私たちを少しだけ気まずくさせた。
せっかくとったのに、カメラの画像はぼけてたから私は消去のボタンを押した。
もう撮る気にはならなかった。
しまったと思う発言も、言ってしまったらどうしようもない。
精市は気付いてしまう。
時間よ戻れと思ったってどうしようもないのだ。
どうしようもなくなって私は素手で雪を触ってうつむく。
「・・・」
「・・・ん?」
私の手は、精市のそれによって雪の中から引っ張り出される。
いつもはひんやりとしている精市の手のひらはじんわりとあったかかった。
私の手が冷たすぎたのかもしれないけれど。
「こっち向いて」
「・・・」
うつむいたままの私の頭がすっぽりと何かに包まれた。
今、私は精市の腕の中だと思うのにそう時間はかからなかった。
「大丈夫だから」
「・・・・」
「俺はずっとちゃんといるから」
「・・・う・・ん、」
「ちゃんとといるから」
さっき精市がこんなに雪が降ったのは久しぶりだと言ったとき、息が詰まりそうになった。
ほんとは去年はもっと記録的な大雪で、みんなそれを知ってる。
精市は、知らないのだ。
去年、ずっと、ずっと、あのひたすら暗くて寒いところにいたから。
ずっとずっとずっとずっと苦しい思いをしていたから。
「どこにも行かないで」
「行かないよ」
涙はひたひたと溢れて、でもそれを精市の薄いグリーンのセーターが吸い取ってくれた。
しゃがんだまま私は精市の背中に腕を回してセーターをつかんだ。
精市が言っている言葉を信用しないわけじゃない。でも、どうしても信じられないのだ。
鍛えてるくせに華奢な肩。
血管が少し見える手の甲は白い。
つきまとう怖さは一生ぬぐえないものなんだってこと、もう分かりたくないほど分かってしまっている。
ああ、どうか神様、どうか。精市を過去になんてしないで。
愛してるんです。
「誕生日おめでとう」
一つ年を重ねてあなたを失うのならばずっと時を止めて二人でここにいたいと思うのはいけないことなのでしょうか