THE SNAGS ON BARBED WIRE





小さな頃からは俺がいないと、何も出来ないやつだった。アイスは何味が食べたいとか、服の色はどっちがいいとか、名前も知らないようなやつから告られた時でさえ「景吾、どうしよう」と言って俺のところにやってきた。それはいつまでも続くはずがないのに、どうしてそんな不確かなものに安心してしまっていたのだろう。



適度な温度に調節してある自分の部屋で、俺は本を読み、は紅茶を淹れていた。ずっと前から見ていた 、いつもの光景だ。は紅茶に恐ろしいくらい砂糖を入れる。前に何杯も砂糖を入れるところを見て顔をしかめた俺を見て、「だって甘くないと飲めないんだもん」と口をとがらせて言っていた。


「ねえねえ景吾、今日宍戸すっごい嬉しそうだったんだけど部活で何かあった?」
「あー?昨日あいつ誕生日だったから少し祝ってやっただけだよ」
「え!宍戸誕生日だったの?知らなかった!なんで言ってくんないの!」
「別に言う必要ねえだろ」
「えー・・・。」
「・・・・・・」
「メール送ろっかなぁ」
「やめとけよ今更」

俺が間髪いれずに言うと、でもさぁー、とかなんとか言ってはソファーに横になった。携帯をいじくりながらうー、だとかあー、だとかよく分からない声を小さく出している。



「やっぱ変?」
「変だろ。別に今更送らなくていいじゃねーか」
「・・・・景吾がそういうならやめとく」






そしてソファーの上にまるで小動物のように丸くなる。
優越感だけじゃない。抱きしめたいと思ったり、いとおしいと思ったりする感情もあるのだ。
「ねえ景吾、宍戸最近ケガすごいね」
こうして俺に100%頼りきってるに俺が今どういったら一番喜ぶか、なんてとっくにわかっていたし、の今ある感情も俺はきっと気づいている。
「今日の授業ね、宍戸が寝ててね、ふふ」
は俺の気持ちどころかきっと自分の気持ちにまで鈍感で、どんな声で、どんな顔で言葉を発しているのか気付いていない。それが救いだった。俺から言ってやるなんて死んでも出来ない。
「宍戸とちょっと話したよ景吾」


すべて同じだったはずだ。俺は本を読んで、ははくほど甘い紅茶を飲んで、とりとめのない話をして。それがずっと続くと思っていたのに。
いつからこいつの中に俺以外の男が入ったの?



「景吾、明日午後の降水確率50%だって。こういう微妙なのって一番困るよねぇ。傘持ってく?」
「部室に傘ある」
「あ、そっか。私どうしよう」
「折りたたみでも持ってけよ」
「そだね。そうする。忘れたら入れてね」


そう言うとは携帯をぱちんと閉じて満足そうに笑った。





は宍戸の前でこんな風に笑ったりするのだろうか。
それとも俺にはみせないような表情を?
そんなことばかり考えていて、肝心なところからは逃げていた気がする。ぬるま湯につかっているような今の状態が好きだったのかもしれない。
宙に浮いたまま、まだごまかせる気がしていた。




有刺鉄線を、紡ぐ。
スティング・シング